執筆者
Yaca Garcia-Planas

 4月11日火曜日、バルセロナ出身のフリアン・マリン氏(27)は、2020年東京オリンピック出場を目指す、U―21タイ代表監督に就任することが発表された。
 同氏は所属する組織「サッカーサービス社」と共に、タイのサッカーを発展させ、新たな形をつくり出す目的のために困難に立ち向かい、大いなる冒険へと歩みを進めることを決めたようだ。

 U―23タイ代表は、長い間オリンピック出場を逃している。フリアン氏に課された使命は決して軽いものではない。しかし同氏は、非常に楽しみにしていると同時に、夜も寝つけないほど興奮しているという。
 それは無限の可能性を秘めている挑戦に立ち向かうからに他ならない。

 では、フリアン・マリンとはどのような人物なのだろうか。
「私が指導者としてのキャリアをスタートさせてから、もう何年も経ちます。15歳のころ、サンクガット・エスポルトFCで指導をしたのがきっかけでした。私のサッカーキャリアにおいて、このクラブとは非常に強い結びつきを持っています。5歳のときに選手としてこのクラブに入団。以降、コーディネーター、そしてスポーツディレクターまで務めてきました。そして次のステップとして、世界中で活動をしていたサッカーサービス社と共に、世界に向けてキャリアアップを進めることにしたのです」

「サッカーサービス社を立ち上げた2名のオーナー、ダビド・エルナンデスとカルレス・ロマゴサは、現在パリ・サンジェルマンFC(PSG)に在籍をしています。カルレスは下部組織からBチームまで束ねるアカデミーの責任者を務め、ダビドはPSGのメソッド部門責任者を務めています。私はその後、このサッカーサービス社の活動を通して、ポーランド、そして日本で行われたキャンプで指導をしました。その後、東京で進められていたプロジェクトの責任者としてサイン。日本に滞在した1年間は、育成年代の選手を対象にしたスクール指導、さらにはプロ選手も含めたコンサルティングと共に、指導者の育成に関わるさまざまな試みも行いました。スペインへ帰国後は、CEサバデルのフベニール(18歳以下)を1年間率いた後、ギジェルモ・フェルナンデス監督のもと、トップチームの第2監督を務めました」

 フリアン氏が、自身のキャリアの新たな転換期として、再びアジアに歩みを進めることを決めたのは、わずか数日前の話だという。
 サバデルの第2監督としての最後のベンチ入りは、2週間前に行われたUEリャゴステラ戦となった。では、彼の新しい挑戦はどのような形で始まることになったのだろうか。

「全ては飛ぶような速さで進んでいったように思います。サッカーサービス社は、タイサッカーの発展のため、そしてタイサッカー協会を新たな形に導くと同時に、タイ人指導者のレベルアップを図るため、同協会と契約を締結しました。プロジェクトには、私を含めて合計4名の指導者が派遣されることになりました。タイサッカー協会は、アジアの中でも最も長い歴史を持つ組織の一つ。今後、中国や日本に並ぶような、非常に大きな可能性を秘めています。中国や日本も今回のタイと同様のプロジェクトを望んでいます。しかし、今回タイで実現することができたのは、単に経済的な問題ではなく、組織全体の意識が大きく関わっていると考えています」

エコノメソッド
 フリアン氏は、「エコノメソッド」と名付けられたトレーニングメソッドについて説明してくれた。

「私たちは、このエコノメソッドによって、タイサッカーの土台を新たに構築していきたいと考えています。まず始めは各代表からその試みをスタートすることになるでしょう。同時に各クラブ、そして育成年代にまでこのメソッドを広めることが私たちの目的です。エコノメソッドは、3つの基本的要素に基づいており、賢さを伴った形で選手が成長をしていくことを狙いとしています」

「一つ目は、選手自身が周囲に存在する多くの情報を得て、状況を把握しながらプレーを行うための『認知』です。それは元FCバルセロナの、シャビ・エルナンデス選手がよく行っていたものといえばわかりやすいかもしれません」

「二つ目は、次に常にボールを使ってトレーニングをするということです。しかしどのメニューに対しても、我々は常に『コンセプト』を与えていくことが特徴です。そして最後に『問いかけ』を通して選手たちに考えさせるということです。トレーニング中に主役になるべきは指導者ではなく、選手であるべきだと私たちは考えています」

「目指すべきプレーとは、抱えている選手たちによって異なってきます。私たちの考えでは、よりカテゴリーの低い育成年代では、味方選手と連携すること、そしてプレーを組み立てていくことを学ぶべきだと考えています。対してオリンピック代表レベルでは、より結果を求めていくことになるでしょう」

2つの目標
 プロジェクト全体の目標を「タイサッカーのレベルアップ」と話したフリアン氏。より具体的な目標に話が及ぶと、自身が率いるU―23代表の目標について話してくれた。

「U―23代表としては、オリンピックの出場権を勝ち獲ることが最大の目標です。タイは長い間オリンピックに出場することができておらず、この挑戦は楽なものではないでしょう。私たちは予選を勝ち抜けるだけの競争力をチームに与え、東京オリンピックの出場権を得なければなりません。そのためにはまず、多くの試合を視察し、選手の選考を行っていきたいと考えています」

「タレントを持った選手を発掘し、最終的に約25名を選出する。これは決して簡単な作業ではなく、よりタイサッカーに対する知識を深めていく必要があると感じています。しかしパチェタ監督のケースのように、スペイン人が指揮を執るチームも存在するなど、タイリーグはアジアの中でも非常にレベルの高いリーグであることは間違いありません。また代表レベルでは、これまでスペイン人が携わった例はありません」

「この挑戦は、私がサッカーの世界に身を置き、成長をし続けていきたい想いから生まれました。これまでさまざまな経験をしてきましたが、代表を率いるというのは、これまでのものとは全くもって異なる経験であり、サッカーの新たな見方を持つための大きな力になると考えています」

文化の違い
 フリアン・マリン氏は、既にアジアに身を置いた経験を持っている。とはいえ、未だ外国での指導は決して楽なものではないようだ。

「文化の違いは、選手とコミュニケーションを取る上で最も難しいものであると感じています。まずその国の言葉を話すことができない場合、全ての会話は通訳を通じて行います。選手たちに伝えたいメッセージをより正確に、はっきりと持つことが必要になります。3年間という任期は一見長いように思えますが、実際には良いチームをつくるため、そして結果を残していく上で、決して豊富な時間ではありません。代表チームは毎日トレーニングを行えるわけではなく、また全員が集まってのトレーニングに至っては限られたわずかな機会しかありません。それはチームを率いる全ての指導者にとっての悩みかもしれませんが、毎日その選手たちと共にいることができない代表チームに至っては、その悩みはより大きなものかもしれません」

「私は1年間日本に滞在し、インドでもある期間生活した経験があります。私にとってこの2つの国は対極にありました。一方は国として裕福で、全てがきちんと整理されていたのに対して、もう一方は非常に貧しく、混沌としていました。そしてこれから私の新たな挑戦がスタートするタイは、その中間にあり、今まさに国として成長段階にあると感じています。国外での生活には常に多くの困難が待ち受けています。しかし、これまで多くの経験をしてきたことで、新しい生活の中で驚くことは少なくなったかもしれません」

 私たちは、フリアン氏の幸運を祈りたいと思う。

MundoDeportivo編集部

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